ある日突然、いつも通りに使っていた PC の電源を入れたら、Windows が起動しない。あるいは、Wi-Fi や有線LAN が一切認識されなくなってしまう…。
そんな悪夢のような事態が、ウイルスや故障ではなく、正規のセキュリティ強化アップデートが原因で、あなたの PC にも起こる可能性が近づいています。
この記事では、現在 PCメーカー各社で静かに進行している「セキュアブート証明書」の更新とは何か、それがなぜあなたの PC に深刻な不具合をもたらす可能性があるのかを解説し、その「もしも」の時に備えて、あなたが今すぐ、そして必ずやっておくべき 2つの重要な対策をご紹介します。
何が起きているのか?「セキュアブート証明書」の世代交代
まず、背景で何が起きているのかを簡単に理解しましょう。
PC の起動時の安全を守る「セキュアブート」という仕組みがあります。これは、PC の電源が入ってから Windows が起動するまでの間に、不正なプログラムが割り込まないように見張る、OS の屈強な「門番」のようなものです。
この門番は、プログラムの安全性を「デジタル署名(証明書)」で判断していますが、現在使われている一部の古い証明書に脆弱性(CVE-2023-24932)が見つかりました。そのため、業界全体で、2026年までにこの古い証明書を無効化し、新しい 2023年版の証明書へと切り替える準備が進められています。
一部の PCメーカーは、すでにこの新しい証明書を含む新バージョンの BIOS をリリースしており、Windows Update などを通じて、あなたの PC にも適用されている(あるいは、これからされる)可能性があります。
この記事の目的は、あなたを BIOS 更新から遠ざけることではありません。むしろ、正しい知識と準備をもって、安心してご自身の PC を最新の状態に保てるようになるためのお手伝いをすることです。
Windows セキュアブート証明書のバージョン・有効期限を調べる方法
【重要】BIOS更新は「知らないうち」に行われている?
「自分は BIOS なんて更新した覚えはない」と思う方も多いかもしれません。しかし、DELL の「SupportAssist」や HP の「Support Assistant」といった、PCメーカーが提供する専用のサポートアプリがインストールされていませんか?
これらのツールは、あなたが気づかないうちに BIOS を更新している可能性があります。
特に多いのが、ツールが「重要な更新があります」と通知してきた際に、リストの中に BIOS アップデートが含まれていることに気づかないまま、「すべて更新」ボタンを押してしまうケースです。
あなた自身が意図していなくても、PC のセキュリティの根幹に関わる「セキュアブート証明書」が、すでに更新されている可能性があるのです。
これが「あなたの PC」に与える深刻な影響
この「門番のルール更新」は、セキュリティを強化する良いことですが、一つ大きな副作用の危険性をはらんでいます。
それは、これまで正常に動作していた、古い証明書を持つ正規のドライバー(特にネットワークドライバーなど)やソフトウェアが、新しいルールでは「信頼できない不正なプログラム」と見なされ、読み込みをブロックされてしまう可能性があることです。
その結果、以下のような不具合が発生する可能性があります。
- Wi-Fi や有線LAN が使えなくなる
- 特定の周辺機器が認識されなくなる
- 最悪の場合、OSの起動に必要なドライバーがブロックされ、Windows が起動しなくなる
【対策1・最重要】今すぐ、完全なバックアップを!
この問題に対する、最も確実で、最も強力な保険が「システムイメージのバックアップ」です。
Acronis True Image のようなバックアップソフトを使い、PC が正常に動作している「今、この瞬間」の状態を、丸ごと外付けHDD などに保存しておきましょう。

万が一、BIOS やWindows のアップデートが原因で PC が起動しなくなっても、このバックアップさえあれば、いつでも今日のこの状態に PC を復元することができます。これは、この記事で最も伝えたい、重要な対策です。
この「システムイメージのバックアップ」こそが、BIOS や Windows の重要な更新を、何も恐れることなく「いつでもどうぞ」という気持ちで実行するための、最強の保険になります。
【Windows 11】無料でOSを丸ごとバックアップ!自分だけの「カスタムインストールメディア」でPCを完全復元
【対策2・推奨】サインインの「逃げ道」を確保する設定
最近の更新プログラム(例: KB5065426)のアンインストールが、PIN でのサインインに問題を引き起こす事例が報告されています。これは、先ほどのセキュアブートの問題とも関連する、Windows のセキュリティ機能の根深い問題です。
万が一、PIN が削除されたり、インターネットに接続できない状態でサインインを求められたりする「詰み」の状態を避けるため、以下の設定変更を強くおすすめします。
- スタートボタンを右クリック>「設定」>「アカウント」>「サインイン オプション」を開きます。
- 「追加の設定」にある「セキュリティ向上のため、このデバイスでは Microsoft アカウント用に Windows Hello サインインのみを許可する (推奨)」という項目のスイッチを「オフ」にします。
なぜ、この設定をオフにするのか?
この設定をオフにすることで、PIN や指紋認証(Windows Hello)に何らかの問題が発生した場合でも、従来通りの「Microsoftアカウントのパスワード」でサインインする選択肢が表示されるようになります。
そもそも、Microsoft アカウントで最初に PIN を作成する際には、あなたのアカウントと PC のセキュリティチップ(TPM)を安全に紐付けるため、インターネット接続が必須となります。つまり、PINは「一度オンラインで設定すれば、オフラインで便利に使える鍵」、パスワードは「本来はオンラインで使うが、オフラインでも使える合鍵」のような関係です。
この設定をオフにしておけば、サインイン時にネットに接続していなくても、PIN が削除されていても、Microsoft アカウントのパスワードでサインインが可能になります。これは、緊急時の非常に重要な「逃げ道」になるのです。
まとめ
- 背景: セキュアブート証明書の世代交代が進行中で、一部の PC ではすでに適用されている。
- リスク: この更新が原因で、ドライバーが読み込まれなくなり、PC が起動しないなどの不具合が起きる可能性がある。
- 対策1(必須): 今すぐ、システム全体の完全なバックアップを取る。
- 対策2(推奨): サインインの「逃げ道」として、「Windows Hello サインインのみを許可する」設定をオフにしておく。
備えあれば憂いなし。この記事が、あなたの PC を未来のトラブルから守る一助となれば幸いです。